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☆Last Up 2013.12.25 版権「※BL注意※欲しいものは一つだけ-2013 A・ミシェル生誕SS-
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彼方今何処にいらっしゃるのでしょう

 

 

 

 

 

 

 

あの日から幾年が過ぎたのでしょう

 

 

 

 

 

 

 

私は今でも彼方を

 

 

 

 

 

 

 


さらさらと優しい風が部屋の中へ流れ込んでくる。
少女はノートに走らせていた手を止めると、窓の方に瞳を向けた。
「優しい風・・・あの日と同じね」
10年前のあの日。愛しいあの人と約束を交わした日も今みたいな優しい風が吹いていた。
少女は万年筆を置き、ノートを閉じる。
風の音を聞いていると10年前のあの日が一気に蘇るようだ。風を肌で感じようとすっと、瞳を閉じた。

 

 

 


10年前の夏休み、少女伊予は避暑のためにこの別荘に来ていた。
夏休みの宿題は早々に片付けてしまうのが伊予の家の決まりであり、父との約束。
宿題を終わらせてしまえば、ゆっくりのんびりしていられるが伊予は暇でしょうがない。
そんな伊予の遊び場は、別荘の裏にある大きな森。
毎日のように森へ行っては、服を泥だらけにして帰ってくる。
白いワンピースでもお構いなしに、いつも頭から足の先まで泥だらけ。
汚してしまった服を一生懸命に洗濯しているのが、自分の家で働いているメイド達だったのを知っていた。
もう、森へ行くのは止めにしようか。そう思っていたある日の朝。
珍しく仕事の前に父が伊予の部屋のドアをたたいた。
「伊予、居るかね?」
「居りますわ、お父様」
伊予が返事をすると、ゆっくりとドアが開いて父と見知らぬ少年が入ってきた。
「伊予、彼は私の友人の息子さんだよ」
「こんにちわ、伊予」
父に紹介されると少年は伊予に向かってお辞儀をした。
伊予より少し年上だろうか。背が高く、足も長い何より落ち着いた雰囲気が感じられる。
「伊予、ご挨拶はどうした」
「あ、はい!伊予と申します。よろしくお願いいたしますわ」
慌てて挨拶をすると、少年は小さく微笑んでいた。
父の話によれば、メイド達から伊予が退屈そうだという話を聞いて話し相手にと、少年を連れてきたとの事。
少年の名は秋人と言って伊予より三つ年上らしい。
父は経緯をひと通り話した後、伊予と秋人を残して仕事へと出かけていった。

 

 

「伊予は森へ行くのが好きなんだってね」
「ええ、でももう行かないわ」
毎日服を汚して帰って来ても、怒るどころか笑顔で迎えてくれるメイド達。
伊予は自分が泥だらけにした服をメイド達が四苦八苦しながら洗濯しているのを知ってしまった。
「服が汚れるから?」
俯いてしまった伊予の顔を秋人が覗き込んだ。伊予は小さく頷いた。
泥だらけになってしまった白いワンピースを元通りの真っ白にするのに、メイド達はどれだけ苦労しているのだろうか。
想像しただけで、伊予は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「伊予は優しいんだね」
秋人は伊予の頭をよしよしと撫でた。
「優しい」だなんて、面と向かって言われたことなど無い。
「優しくなんて無いわ。だって、みんなの苦労にずっと気付かなかったんだもの」
今着ている服も以前泥だらけにしたことがある。伊予はぎゅっと手のひらを握り締めた。
「お嬢様、お茶をお持ちいたしました」
「どうぞ」
伊予が声をかけると、失礼致しますと言って一人のメイドが入ってきた。
メイドが押している配膳台の上には、ポットとティーカップが二つ。美味しそうなケーキが置いてある。
「今日の紅茶は、お嬢様のお好きなオレンジ・ペコーですよ」
カチャカチャと紅茶を淹れながら、メイドは伊予に優しそうな笑顔を向けた。ケーキを差し出し、紅茶をティーカップへ注ぐ。
「いつも、ありがとう」
「はい、どういたしましてですわ」
伊予がお礼を言うと、嬉しそうに微笑んだ。
いつも伊予にお茶を運んで来てくれる彼女は、伊予がお礼を言うととても嬉しそうにしてくれる。
「それでわ、後で片付けに参りますね」
お辞儀をして、部屋を出て行くメイドの姿を伊予はずっと見つめていた。
「ねぇ、伊予」
「お茶、美味しいでしょ?」
伊予が問うと、秋人が頷く。
それだけで何故か伊予はとても嬉しい気持ちになった。
「お茶を飲んだら、森へ行こうか」
秋人の信じられない言葉に、伊予は動揺した。思わずティーカップを手から落としそうになってしまう。
慌ててテーブルの上に置き、秋人を見る。
「でも・・・・」
「行こうよ。家の中にいるだけじゃ退屈だろ?」
でも、森へ行ってしまったら・・・・・また服を泥だらけにしてしまう。
メイド達にまた迷惑をかけてしまう。
「汚してしまわないようにすれば、大丈夫」
さぁ、と秋人が立ち上がった。
伊予はどうすればいいのかわからなくなってしまう。確かに、家の中にずっと居たんでは退屈だ。
でも、森へ行ってしまえば、きっと服を汚してしまうだろう。
「汚してしまったら、僕らも一緒に洗濯しようか!」
「そんなこと!メイドのみんなが許してくれないわ・・・。」
食器を片付け、掃除、何をやるにしてもメイド達は絶対に伊予にはやらせてはくれないのだ。
本当は何か手伝いたいのに。
「お嬢様にそんなことはさせられません!!っていつも言われるんだもの」
「やっぱり、伊予は優しいんだ」
秋人の言葉が妙に嬉しくて、思わず伊予は瞳を逸らした。
くすくすと秋人が笑っている声が聞こえる。
「さぁ、お茶を飲んだら行くよ」
「え・・・!ちょっと待って!私行くなんて・・・」
断る間も無く、伊予は秋人に半ば強引に連れ出されてしまった。

 

 

その日からまた伊予は森へ遊びに行くようになった。今度は秋人が一緒だ。
夏休み最後の日。伊予と秋人はいつものように森で遊んでいた。
明日からは学校で新学期が始まる。伊予はその日の夜には別荘を後にしなければならない。
「伊予、聞いてくれるかい?」
急に真剣な表情をして、秋人は伊予を見た。
何かを思いつめたような秋人の表情。自然と伊予の表情も強張った。
「父の仕事の都合で海外に行かなくてはいけないんだ」
「え・・・?」
突然の秋人の申し出。
秋人の父が海外でも活躍しているという事は、伊予の父や秋人自身からも聞いていた。
海外出張なども多くてあまり父とは会えないと秋人が寂しそうに言っていたのを覚えている。
「いつも戻ってこられるかも・・・わからない」
「もう、会えないの・・・?」
泣き出してしまいそうなのを我慢して、伊予は俯いた。
「伊予。必ず、迎えに来るから。僕を待っていてくれるかい」
伊予の手を秋人が強く握る。
途端に伊予の瞳からポロポロと涙が溢れた。何も言わずに、ただ頷いて秋人の手を握り返す。

 

 

 

 

その約束から10年。秋人からの連絡は一切無い。
伊予は自分から彼を探そうとはしなかった。秋人からの連絡をずっと待っているのだ。
毎年、夏休みに入るとこの別荘へ訪れ森を散歩する。

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ・・・・・・秋人今何処にいるのですか?

 

 

 

 

 

 

 

もう、森へ出かけても服を汚すことはなくなりました

 

 

 

 

 

 

 

私は今でも

 

 

 

 

 

 

 

彼方が迎えに来てくれるのを待っています

 

 

 

 

 

 

 


「お嬢様、お手紙が届いておりますよ」
メイドが持ってきた一通の手紙。
それは、伊予の待ち望んだものだったのだろうか。

 

 

 

 

 


END

 

 

 

 


☆コメント☆

えーと、やたら長くてすいません。←本当にな
今回のは幼い日って言っても、小学生くらいかな。
大切な人との約束、果たされるかどうかすらわからない約束を信じてずっと待ってる女の子のお話です。
すごいですね。10年とか。実は、書きたかったエピソードがちょっと抜けてます。
だって、長くなり過ぎそうだったもので・・・・。こちらも前回と同様に完全版は図書室にUPしますね。

最後に届いた手紙。伊予にとって嬉しいものか、悲しいものか。完全版UPまでは読んでくださった皆様のご想像にお任せ致します。
そして、待たせる男秋人(酷い言い様)の安否も。
突然舞い降りたお話だったのですが、楽しく書くことが出来ました。
伊予の切ない気持ちを表現しきれてませんが、何か感じ取っていただく事が出来れば幸いですvv
では、ここまで読んでくださった方お疲れ様です!そして、ありがとうございました!!

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日々精進、有言実行を夢見て生きてます。
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