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☆Last Up 2013.12.25 版権「※BL注意※欲しいものは一つだけ-2013 A・ミシェル生誕SS-
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雨は嫌いだ。
しとしと、ざーざーと一日中降り続く雨。
窓の外に置いてある植木鉢をそっと見つめた。
















―ここにいるよ―





「お休みなさい、良い夢を」
優しい言葉と笑顔を召使は少女に向けた。
まだ、両親が恋しいであろう5歳の少女。
「姫様のご様子は?」
そう尋ねられた召使は沈んだ表情で俯き、首を横に振る。
「怪我をなさっている訳ではないと、ヴォルス様もお医者様も言っておりますわ」
つい先日まで、姫と呼ばれる少女は無邪気に笑う明るい子供だった。
でも今は一言も言葉を発する事も無ければ、笑顔すら見せてはくれない。まるで生きているだけの人形のようになってしまったのだ。



一人になった暗く広い部屋で少女はベッドに入り、じっと天井を見つめていた。
アメジスト色のその瞳には光は無く、悲しげな色を映し出している。
「・・・・・ママ」
そう、一言呟くときゅっと体を丸め膝を抱えた。
誰にも聞こえないように少女は小さくすすり泣く。
そして今日も無き疲れていつの間にか眠りにつくのだ。



次の日の朝、少女は母の部屋に居た。
毎朝当たり前のように会えていた、そこに居るはずの母の部屋。
「姫様、ヴォルーナ様。こちらにいらしゃったのですね」
もうすぐ朝食の時間ですよ、と召使は言った。
「・・・・いらない」
ヴォルーナは小さな声で言う。母の居ない食卓など、ヴォルーナはつきたくはない。
何もかもどうでも言い、そう思い始めていた。
「少しでも何か食べないと、お体を壊しますわ」
召使の心配する言葉すらも鬱陶しくさえ思える。
とにかく一人にして欲しいとそう言わんばかりに召使を見つめた。
「・・・・病気になって死ねば、ママの所へ行ける?」
「なっ・・・・ヴォルーナ様・・・・」
召使の表情が一瞬にして凍りつく。
目の前のたった5歳の少女がこんなことを言うなんて、召使は想像もしていなかった。
何も言う事が出来ずに、召使はただ体を震わせてその場に立ち尽くす。
「お前が死んでしまったら、私はどうすれば良いのだ?」
扉の方からずっしりと重い声が聞こえた。
見ると開けっ放しの扉の外には、がっしりとした体つきの背の高い男が一人。
「・・・・ヴォルス様・・・」
召使が男の名を呼ぶ。ヴォルスは召使に優しい笑顔を向けた。
「下がって良いぞ。後は私に任せなさい」
深々と頭を下げ、召使は部屋を小走りに去っていく。
ヴォルスは召使の姿が見えなくなったのを確認すると、部屋へ入り扉を閉めた。
数日で一気に変わってしまった愛娘。亡き妻との大切に大切に育ててきた一人娘だ。
「ママはヴォルーナのせいで死んじゃった」
数日前。土砂降りの雨の夜、ヴォルーナの母親のライザはヴォルーナを庇い命を落とした。
自分のせいでライザは死んだ、ヴォルーナはずっとそう思っているのだ。
「ヴォルーナ、あれはお前のせいではないんだよ。ママは・・」
「違くないっ!ヴォルーナが・・・・ママの言う事聞けなくて・・悪い子だったから・・・だからっ」
小さな手を握り締めて、必死に涙を堪えた。
瞳を閉じれば大好きな母が亡くなる記憶が蘇る。自分のせいで母が死んだと思い知らされる。
武器を持った恐い人が母を切りつけた瞬間が、ヴォルーナの脳裏に焼きついて離れない。
「来たら、ダメって・・・・なのに、ママ・・・・」
自分の名前を叫んだ母の声までもが聞こえてきそうな気がして、耳を塞ぐ。

恐い、恐い、恐い
誰か、助けて、ママに会いたい
私をママの所に行かせて

何も聞きたくない、聞こえたくない。ヴォルーナは座り込んで、小さく嗚咽を漏らす。
こんなに苦しい思いをするのならば、自分も死んでしまえば良かった。
あんな形で母と別れるくらいなら、いっそ連れて行って欲しかった。
苦しい、恐い、そんな思いがヴォルーナの中で渦巻く。
「ヴォルーナ、お前に渡しておきたい物がある」
今にも壊れて仕舞いそうな娘をヴォルスはそっと抱きしめる。大きな手でヴォルーナの背中を擦った。
「もう、出てきても良いぞ」
誰かに向かって発する声。その声に反応して、誰かが近付いてくる物音。
その足音は人にしては控えめすぎていてまるでぬいぐるみを床に歩かせているような音だった。
恐る恐る顔を上げ、父の腕の中から部屋の中を見る。
さっきとさほど変わった様子も無く誰か人が居る気配も全くない。
「そっちじゃねぇよ、こっち」
「きゃっ」
突然ひょっこりと何かが目の前に現れた。
大きな耳に、くりくりとした大きな瞳。首にはピンク色のリボンを巻いている。
「ウサギさん・・・?」
ウサギのぬいぐるみがじっとヴォルーナの顔を見ていた。
一体何処からこんなものが出てきたのだろうか。しかし、ヴォルーナにはそんなことはどうでも良い。
ただ、このウサギのぬいぐるみからは大好きな母と同じ香りがする。甘い良い香り、母の香りだ。
「ママからお前にだよ・・・ライザ」
「おう」
ヴォルスがウサギを「ライザ」と呼ぶ。
するとウサギは、顎が外れてしまったのではないかと思うくらいに口をぱっくりと開けて見せた。
口を縫ってある糸も一緒に伸びているのだろうか、切れる様子は全くない。
ぱっくりと開けた口の中から紫色の光が溢れ出た。そして、その光の中からヴォルーナの大好きな人に良く似た人物が現れた。
「マ・・・マ・・・?」
凄く凄く小さくなってしまってはいるが、間違いなくヴォルーナの母だ。
「ヴォルーナ、貴女がこれを見ているという事は私はもう貴女の元には居ないのですね」
聞き慣れた優しい母の声がする。もう、聞く事は出来ないと思っていた母の声。
「ヴォルーナ?ずっと見ていましたよ、ライザの眼を通して貴女のことをずっと」
母はヴォルーナに向かってにっこりと笑いかける。
ヴォルーナが大好きだった笑顔も声も以前とどこも変わっていない。ヴォルーナは妙にそれが嬉しかった。
死んでしまった母が目の前に居る。無意識に母に向かって手を伸ばした。
スッと通り抜けるヴォルーナの手。ライザは悲しげに笑った。
「私はもう、あなた方に触れることすら出来ません。ですが、ずっと見守っていますよ」
「もう、会えない?」
ヴォルーナの問いにライザはにっこりと笑ってみせる。
「いつでも、貴女の傍に居ます。彼の中に私は居ます」
口を開けたままで喋ることが出来ないのか、ウサギはヴォルーナに手を差し出す。
今度からは母の変わりに自分が傍に居る。そう言っているように見えた。
小さなウサギの手が同じように小さなヴォルーナの手をそっと握る。ウサギの手はぬいぐるみのくせにライザやヴォルスのように温かい。
「彼方はママなの?ママはヴォルーナの傍に居てくれるの?」
握った手をぶんぶんと縦に振りながら、ウサギはこくんと大きく頷く。
「ママ、ヴォルーナのこと怒ってないの?」
約束を破った事、そのせいでヴォルーナを庇い命を落とした事をライザは怒っているのではないか。
聞きたくなかった、でも聞かずには居られなかったのだ。
ライザは静かに首を横に振って見せた。そして一言。
「怒っていませんよ、ヴォルーナ。あの時貴女に怪我がなくて本当に良かった」
そう言った。愛する娘を守って落とした命、ライザには全く悔いは無い。ましてや幼い娘を怒ったり恨んだりするなど、ライザがするはずが無い。
「ママ・・・ママっ・・・・ごめ・・なさ・・・っ・・」
我慢していた涙が一気に溢れ出る。ヴォルスの胸にしがみ付いて声を上げて泣いていた。
約束を破ってしまった、そのせいで死んでしまったと思っていたヴォルーナ。
自分が良い子に出来なかったから、母は死んでヴォルーナから離れて行ってしまったんだ。
しかし、それは只の思い込みだった。母はライザはヴォルーナを怒ってなどいない。それどころか死んでしまってもなお、彼女の傍に居て見守ってくれていたのだ。
「ヴォルーナ、死んでしまいたいなんて言わないで?貴女は私達の大事な娘なのだから」
ヴォルーナは泣きながら、何度も何度も頷く。
その頭を父であるヴォルスがそっと撫でた。
「ヴォルーナ、ヴォルス様いつまでも愛しておりますよ」
ライザは最後ににっこりと笑うと、紫色の光に包まれて消えていった。
何事も無かったかのように、ウサギのぬいぐるみはぱっくりと開いた口を閉めてヴォルーナを見る。
手は先ほどから握ったままだ。
「オレ様はライザにお前のために作られたぬいぐるみだ」
見た目とは裏腹にかなりぶっきらぼうな物言いをするらしいウサギのぬいぐるみ。
涙を拭って父とウサギを交互に見る。
「ライザって呼べよ!ヴォルーナ」
「・・・うんっ!」


ヴォルーナとライザは一心同体の姉弟のように毎日を過ごす。
悲しい時も、嬉しい時も、全てを二人で分かち合う。
母の形見のぬいぐるみとやがて一国の王となる少女のお話。


「ここにいるよ、貴女のとなりに」

ずっと傍に






END




今回はオリジキャラの過去話です。
本館サイトでちょこちょこ出てる、ヴォルーナとライザの出会いのお話です。


ぶっちゃけ5歳の子供があんなふうに思い詰めるかどうかは想像でしかありませんが、母親の死がそれだけヴォルーナのトラウマになってたんだなって、思って下されば良いかと思います。
ライザはヴォルーナの母が残した最後のプレゼントです。設定的には後ちょっとでヴォルーナの6回目の誕生日って事にしてます。
どんな事件があって母のライザが命を落としたかって言うのは、別のオリキャラの過去話とリンクしてるので、またいつかUP出来たら良いなー。


ちなみに、本文中で5歳児に衝撃的な事を言われた召使さんには後でヴォルーナがライザ(ぬいぐるみ)と一緒にきちんと謝りに行きました。(笑)
では、最後まで読んで下さった方ありがとうございました。
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日々精進、有言実行を夢見て生きてます。
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