☆Last Up 2013.12.25 版権「※BL注意※欲しいものは一つだけ-2013 A・ミシェル生誕SS-
☆Last Up→ 2013.12.25 版権「※BL注意※欲しいものは一つだけ-A・ミシェル生誕SS-」☆
こちらのブログは「黒猫と魔女」管理人蜂蜜(ちびたま)による、「雑記専用ブログ」です。
雑記専用ですので更新は不定期になります。
☆雑記とは?☆
私の言う雑記とは、いわば「SS(ショートストーリー)」「詩」などのことです。
「蜂さんぶんぶん」で雑記とカテゴリ分けしていたのが該当します。
ジャンルは創作
サブジャンルとしてポップン・サモン・その他版権
※ごくごくたまにですが、BL等ある場合があります※
※サブジャンルは同人です。
興味本位で観覧して気分が悪くなったりしてしまっても本館サイト同様に管理人は一切責任を負いません。
予めご了承く下さいませ。
SS等の感想などありましたら、お気軽にコメントくださいませ。
文章に限りますが、リクエストなどもいただけると嬉しいです。
☆以下より簡単な書いた物一覧☆
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☆雑記とは?☆
私の言う雑記とは、いわば「SS(ショートストーリー)」「詩」などのことです。
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※版権二次創作[BL注意] ミシェル×ヒュー(ポップン)※
BLにつき観覧は「☆本文へ☆」からどうぞ↓↓
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※版権二次創作 フェア+コーラル(サモンナイト4)※
1年に1度お母さんに感謝する日。
あなたはどうやって感謝の気持ちを伝えますか?
お昼ご飯を食べて、最近いつも通う場所がある。
「コーラルちゃん、いらっしゃい」
目的地はミントの家・・・の庭だ。
ぺこリとお辞儀をすると、持参したジョウロにたっぷりと水を汲んだ
一目散に向かうのは研究のために植えられてる野菜畑の隅っこに置かれた植木鉢。
「少し・・・大きくなった、気がする・・・」
ミントから貰った種を植えてから1週間。
少しずつではあるが、すくすくと育っているように見える。
「コーラルちゃんが毎日たっぷりとお水をあげてるおかげね」
いつの間にか横にしゃがんだミントが言った。
コーラルは1週間ずっと毎日毎日足を運んでは一生懸命世話をしている。
花を育てるのは生まれて初めてだが、分からない事は何でもミントが教えてくれた。
「もう少ししたら、つぼみがもっと大きくなってキレイな花が咲くよ」
少しだけ膨らみ始めたつぼみを見ながら言った。
「母の日・・・間に合う?」
コーラルは期待を含んだキラキラとした瞳でミントを見た。
「うん、きっと大丈夫!」
ミントがにっこりと笑って言った。
母の日までもう少し、キレイな花を咲かせて大好きなお母さんにプレゼントする。
それだけじゃない。母の日はコーラルがお店の1日店長になる・・・予定だ。
事の発端は1週間前。
-1週間前-
「フェア・・あのお花何・・・?」
寝室の窓辺にちょこんと置かれた小さな植木鉢がある。
植木鉢を覗き込むと、青々とした葉っぱが顔を出していた。
眠い目を擦りながらふと目に入った謎の植木鉢がずっと気になっていたのだ。
「ん?ああ、カネルの花よ」
コーラルの問いに、パンをちぎって口に運びながらフェアは答えた。
「もうそんな時期なんだね、フェアさん」
いつものようにお昼を食べに来ているルシアンが言った。
そんな時期、とはどういう事なのだろうか。コーラルの疑問は膨らむばかりだ。
「何故カネルの花なんですの?花なんてたくさんありますのに」
リビエルも疑問を口にした。
確かに、育てるのならばカネルの花で無くても良いじゃないかとコーラルも思う。
「カネルの花じゃなきゃダメなのよ」
リシェルが頬杖を付いて、ぶんぶんとフォークを振り回しながら口を挟んだ。
この時期にしかもカネルの花でなくてはいけない事。何がなんだかさっぱりだった。
「カネルの花と言えば、懐かしいわねぇ。ね、アルバ?」
「アカネ姉ちゃん!昔の事はどうだって良いだろ!」
ニヤニヤと笑っているアカネにアルバが珍しく焦って反論している。
横目でちらっとフェアの顔を見ると、困ったような悲しそうな何とも言えない表情をしていた。
それ以上何も聞けなかった。聞いてはいけない気がした。
「ルシアン・・・さっきのお話、詳しく教えて・・・」
お昼が終わって、お屋敷へ帰ろうとするルシアンとリシェルを無理矢理捕まえて、話の続きをお願いした。
さっきのフェアの表情がどうしても気になって仕方がないのだ。
「うーん、どうしよう?姉さん?」
「良いんじゃないの?別に隠しておく事でも無いし」
神妙な面持ちのルシアンとは対照的に、リシェルはけろっとした態度だ。
コーラルはじっとルシアンを見つめた。
すると、ルシアンはしばらく考えた後ゆっくりと話始めた。
「もうすぐ母の日、なんだよ」
「・・・母の日??」
聞き慣れない言葉に、コーラルを含め御使い全員が驚きの表情を浮かべた。
母の日なんて言うものは聞いた事がない。
先代の記憶や知識にもそのような物は無かった。
「知らないのも無理はないわ。だってあいつのパパが言ってたんだもん」
明らかに知らないといったコーラル達の様子に、あっけらかんとした態度でリシェルが言った。
フェアの父親が言っていた、という事は彼の故郷の世界での風習なのだろう。
それならば御使い達が知らないのも、先代の記憶や知識に無いのも無理ない。
「母の日って言うのはね。1年に1度お母さんに感謝する日なんだって。カーネーションって花をプレゼントするらしいんだけど。」
「リインバウムにはそういう花は無いし。カネルの花がその花に似てるらしいわよ」
カーネーション、確かにそれも聞いた事が無い花の名前だ。
フェアはその母の日のためにカネルの花を育てているに違いないとコーラルは思った。
けれど、フェアの母親は彼女が幼い時に亡くなってしまっているはずだ。
どうやってプレゼントする気なのだろう??
いや、それよりもお母さんに感謝する日があると言うのなら、自分も大好きなお母さんに感謝しなければならない。
「・・・僕もフェアにプレゼント・・・したい」
キレイなお花をプレゼントして、「いつもありがとう」その一言を改めて伝えたい。
「あんたにお花なんて育てられんの?」
「失礼ですわよ!リシェル!」
ポロッと思った事を口にしてしまったリシェルにリビエルが突っかかる。
確かに、自分が花を育てるなどという事が出来るかどうかわからない。
もしかしたら、枯らしてしまうかも知れない。
「お花を育てるのも・・・経験・・・」
だよね、セイロンとセイロンを見やる。
扇子で口元を隠してはいるが、いつものあの全てを見透かしたような笑みを浮かべてるに違いない。
実は母の日も知っていたのではないかとさえ思えてくる。
「それならミントさんの所に行くと良いわ。フェアも毎年ミントさんに種を貰ってるはずだから」
グラスのジュースを一気に飲み干すと、リシェルが言った。
ここからコーラルの初めての母の日プレゼント作戦が始まったのだ。
「・・・早く大きくなぁれ・・・」
小さく呟いて、1番日当たりの良さそうな所へ植木鉢を動かす。
野菜を取りに来たフェアに見つかっては作戦が台無しなので、後で戻しておいて貰えるように頼んでミントの家を後にした。
もうすぐお昼休憩が終わる時間だ。
いつも以上にフェアにくっついて、仕事をしっかりと見ておかなければならない。
何故ならば、花をプレゼントしただけではコーラルの母の日は終わらないからだ。
それから毎日毎日コーラルはミントの所へ通った。
少しずつ大きくなるカネルの花を見て、フェアの笑顔を思い浮かべる。
キレイな花を咲かせる事が出来れば、きっとフェアは喜んでくれる。その一心だった。
「ねぇ、オヤカタ?きっとフェアちゃんは喜んでくれるよね?」
「ムイムイ!」
だって、コーラルちゃんはこんなに頑張っているんだもの。
毎日花の世話をしに来るコーラルをミントは優しい眼差しで見つめていた。
そして、母の日当日。
フェアは寝室で困り果てていた。
と言うもの。今朝珍しくコーラルが自分より早く起きていると思うと。
「・・・今日は僕達が頑張るから、フェアはお休み・・・」
と、言われ厨房から追い出されてしまったのだ。
ずっと働き詰めなフェアにとってお休みと言われても何をしたら良いのか。
「皇子様!シーツが逆さまですわ!」
「ちょっと、グランバルドォ?洗濯物落として歩かないでよ」
「ポムニットさん!!!!お鍋!お鍋!!」
さらに、家の至る所から聞こえてくる声に外の様子が気になって仕方がない。
出て行ってしまいたいのはやまやまだが、そうすると皆のせっかくの好意を踏みにじってしまう。
でも気になって気になって仕方がない。
「あ、カネルの花今年もキレイに咲いたなぁ・・・」
朝水をやるだけで、じっくり様子を見る事が出来なかった窓辺の植木鉢。
今年もピンク色のキレイな花が1輪風に揺れている。
その様子を見ているとなんだか妙に眠くなって来て、自然と瞼が重くなっていった。
みんな大丈夫かな?ミントお姉ちゃんも来てくれるって言ってたし、アルバも居るし。
眠りに落ちるまどろみの中でそんな事を考えていた。
母の日の今日はコーラルが1日店長だ。
と言っても、流石にに料理は作れないので、料理はポムニットとミントにお願いしている。
コーラルは他のみんなと一緒に料理を運んだり、掃除をしたり、洗濯をしたり。
とにかくいつも以上に率先して動いた。
寝室に入ったっきりで静かだけど、フェアはゆっくり休めているだろうか。
みんなの力を仮ながら何とか仕事をこなしながら、コーラルはそんな事を考えていた。
バタバタと慌しく動いていると、気が付くともうすぐお昼休憩の時間だ。
「ありがとうございましたー」
ランチの最後のお客さんを見送った後、コーラルはこっそりと寝室を覗いてみた。
ベッドの上で気持ち良さそうに寝ているフェアを見つけた。
起こさないようにそーっと扉を閉めて寝室に入ると、じっとフェアの寝顔を見つめた。
いつもコーラルより遅く寝て、コーラルよりも早く起きて働くフェア。
そんな彼女の寝顔を見る事が出来るのは非常に珍しいことだ。
ゆっくりと寝かせてあげたいが、そろそろお昼なので起きてもらわなければならない。
「・・・フェア、フェア起きて・・・お昼ご飯だよ」
ゆさゆさと体を揺すった。
やはり、相当疲れているのだろうか。なかなか起きてくれない。
「フェア、ご飯だよ・・・」
もう1度フェアの体を揺すった。
「うーん・・・?・・・コーラル??」
眠そうな目を擦って、フェアが目を覚ました。
ゆっくり休んでと言った手前、無理矢理起こすのは気が引けてしまうが。
起こさずに寝ていたせいでご飯を食いぱぐれるのはもっと気が引ける。
「お昼、食べよう?」
起き上がる手助けをしながら、フェアに言った。
フェアのこんな姿を見られるのは僕だけの特権だよね?そんな事を考えているのは内緒だ。
「遅いわよー!もうお腹ぺっこぺこだわよ」
フォークとスプーンを持った両手でどんどんとテーブルを叩きながらリシェルがぶーたれる。
テーブルにはポムニットお手製のお昼ご飯が並べられていた。
「フェア、今日はゆっくり休めていまして?」
「お休みなんて本当に久しぶりだからみんなの事が気になっちゃって」
リビエルの問いにフェアは正直に答える。
「そんな事言って、どーせ寝こけてたんでしょおー?寝癖付いてるわよー」
「良いじゃない?ちゃんと休めてるみたいだし」
リシェルのちゃちゃをフォローするようにルシアンが言った。
確かにさっきまでスヤスヤと気持ち良さそうに寝ていた、とコーラルは思う。
いつも無理をしているフェアが少しでもたった1日でも休めているなら嬉しい。
「でも、午後は何をしようか全然決めてないの。まさか寝て過ごしちゃう訳にもいかないし」
「全く、贅沢な悩みですわ」
困ったように笑うフェアに、呆れたようにリビエルが言う。
しかし、それだけ休み無く働く彼女にとって、仕事をしないと言うのは考えられない事なのだ。
「では、久しぶりゆっくりトレイユの町をお散歩なんてどうでしょう?」
コレは名案と言わんばかりに、ポンッと手を叩いてポムニットが言った。
「今更町を散歩して何が面白いのよー」
「ゆっくりとお散布するだけでも違った何かが見えてくるかも知れませんよ?」
しかし、リシェルがいともあっさりと切り捨てにかかる。
いつもならばここで引き下がるポムニットだが、今回はなんとか食い下がった。
コーラルとしては、フェアに散歩に出てもらった方が都合が良い。
こっそりと育てていたカネルの花の植木鉢を、これまたこっそりとミントの家から持ってくる事が出来るからだ。
「散歩かぁー。うん、参考にさせてもらうよ」
「ええ、是非にそうして下さいまし!」
ポムニットは満足そうに笑った。
みんなでお昼を食べた後。コーラルは一人ミントの家へ向かっていた。
大切に育てカネルの植木鉢をこっそりと運ぶためだ。
昨日までに大きく膨らんでいたつぼみはすっかりと花開いて、真っ赤な花が咲いていた。
「お花・・・咲いた・・・」
「コーラルちゃんが一生懸命お世話したからだよ」
生まれて初めて育てた花は、思わず見とれてしまうくらいにキレイだった。
自分にも花を育てる事が出来たという事が、なんだか嬉しく感じる。
「よし、じゃあリボンを付けてっと。フェアちゃんに見つからないうちに移動しようか」
「こっちは・・・ここに付けて・・・」
ミントが花と同じくらい真っ赤なリボンを植木鉢に付けてくれた。
その袖をくいくいと引っ張って、隣の植木鉢を指差す。
「こっちは切ってしまっても良いの?」
ミントの問いにコーラルはこくんと頷いてみせる。
この日のために育てたカネルの花は一つだけでは無かった。
一生懸命考えた母の日作戦に用意した花は二つ。
どちらもフェアのためにコーラルが一生懸命育てた花だ。
何故二つも用意したのかはミントにも解らないが、コーラルによればこれが今回の最大のサプライズらしい。
「はい、これで良いのかな」
一つは植木鉢に赤いリボンが、もう一つは一輪の可愛らしい花束に。
二つの花はそれぞれ異なる姿のプレゼントになった。
「・・・ありがとう」
「どう致しまして!それじゃ、そろそろ行きましょうか」
優しく微笑むミントに、控えめにお礼を言うとぺこりとお辞儀をした。
プレゼントの用意はバッチリだ。フェアは喜んでくれるだろうか。
そんな事を考えながら植木鉢を抱え込むと、ミントの後に続いてその場を後にした。
アルバが散歩に連れ出してくれているはずのフェアに遭遇しないように、細心の注意を払いながら。
「(お花・・・何処に置いたら見つからないかな・・・)」
悩んだ末に見つけた場所は、宿のカウンターの下。
そこなら今日は大丈夫なはず、そう思った。
ディナーの時間が終わり、最後のお客さんを見送るとようやっとみなの夕飯の時間だ。
プレゼントをお披露目する時間が刻一刻と迫るにつれコーラルは妙にそわそわしてしまう。
なんて言って渡そうか。ちゃんと「ありがとう」と言えるだろうか。
「(お母さん、いつもありがとう・・・。お母さん、いつもありがとう・・・)」
心の中で何度も何でも復唱をする。食事中のみなの会話など耳に入らぬほどに緊張していた。
夕飯の時間が終わり、食器を片付けた後。
コーラルはこっそりと隠して置いたカネルの花を持って、忍び足でそーっとフェアの真後ろに立った。
「フェア・・・あのね・・・」
声を掛けてから、服を掴んでくいくいと引っ張った。
「わっ!!コーラル、どうしたの?」
「コレ・・・母の日・・・プレゼント・・・」
驚いた表情で振り向いたフェアに一生懸命育てたカネルの花の植木鉢を差し出した。
フェアは今どんな顔をしているだろうか?緊張して、ぎゅっと目を瞑ってしまった。
ふわっと、暖かな感触がしたと思い恐る恐る目を開けると、植木鉢ごとフェアに抱きしめられていた。
「ありがとう、コーラル」
耳元で聞こえたフェアの声は微かに震えているような気がした。
喜んでくれているのだろうか。迷惑だったのだろうか。
ちらりとアルバの顔を見るとにっこりと笑って、小さくガッツポーズをしている。
「フェア・・・嬉しい・・・?」
「すごくすごく嬉しいよ!」
コーラルの問いにフェアは笑顔で答えてくれた。
それは、コーラルが見たかった最高の笑顔だ。
カネルの花プレゼント作戦は大成功だが、コーラルからのサプライズはもう一つある。
それらも成功させるために、コーラルはもう一度フェアの服を引っ張った。
「・・・母の日まだ・・・終わりじゃないよ・・・」
もう一つのサプライズ、それにはあの花も必要だ。
コーラルが母の日を知るきっかけとなったあの花が。
コーラルがフェアを連れて向かった先。
今はすっかり水が濁ってしまい町の住民からは「ドブ池」と呼ばれている場所。
そう、「望月の泉」だ。
「フェアが・・・お花育ててたのは・・・ここへ来るためでしょ・・・?」
何故かは解らないが、毎年大切に育てたカネルの花を泉に入れていると。
これはルシアンから聞いた話だった。
こっそりと持ち出したフェアが育てたカネルの花をそっと差し出した。
「そのために、リボン・・・付けてた、違うの?」
「・・・そうだよ。ここにお母さんが居る訳じゃないけど、思い出の場所だから」
お母さんに届く気がするんだ、そう小さく呟いく。
目の前のピンクの花をきゅっと握り締めた。
「・・・僕も、フェアのお母さんに・・・お花持って来たよ・・・」
ミントにラッピングして貰った花束を見せた。
フェアとフェアの母親似届くように願いを込める、これがサプライズの最後だ。
本当に届くかどうかなんて解らないけれど、きっと無意味なんかではない。
フェアがそう信じるのなら、コーラルも信じたい。たったそれだけだ。
「ありがとう・・・。お母さんに届くと良いな・・・」
きっと届く。そう願いを込めた花束を今年は二つ。
そっと泉に浮かべた。
「・・・お母さん、いつもありがとう」
全てのお母さんに感謝の言葉を・・・
END
1年に1度お母さんに感謝する日。
あなたはどうやって感謝の気持ちを伝えますか?
お昼ご飯を食べて、最近いつも通う場所がある。
「コーラルちゃん、いらっしゃい」
目的地はミントの家・・・の庭だ。
ぺこリとお辞儀をすると、持参したジョウロにたっぷりと水を汲んだ
一目散に向かうのは研究のために植えられてる野菜畑の隅っこに置かれた植木鉢。
「少し・・・大きくなった、気がする・・・」
ミントから貰った種を植えてから1週間。
少しずつではあるが、すくすくと育っているように見える。
「コーラルちゃんが毎日たっぷりとお水をあげてるおかげね」
いつの間にか横にしゃがんだミントが言った。
コーラルは1週間ずっと毎日毎日足を運んでは一生懸命世話をしている。
花を育てるのは生まれて初めてだが、分からない事は何でもミントが教えてくれた。
「もう少ししたら、つぼみがもっと大きくなってキレイな花が咲くよ」
少しだけ膨らみ始めたつぼみを見ながら言った。
「母の日・・・間に合う?」
コーラルは期待を含んだキラキラとした瞳でミントを見た。
「うん、きっと大丈夫!」
ミントがにっこりと笑って言った。
母の日までもう少し、キレイな花を咲かせて大好きなお母さんにプレゼントする。
それだけじゃない。母の日はコーラルがお店の1日店長になる・・・予定だ。
事の発端は1週間前。
-1週間前-
「フェア・・あのお花何・・・?」
寝室の窓辺にちょこんと置かれた小さな植木鉢がある。
植木鉢を覗き込むと、青々とした葉っぱが顔を出していた。
眠い目を擦りながらふと目に入った謎の植木鉢がずっと気になっていたのだ。
「ん?ああ、カネルの花よ」
コーラルの問いに、パンをちぎって口に運びながらフェアは答えた。
「もうそんな時期なんだね、フェアさん」
いつものようにお昼を食べに来ているルシアンが言った。
そんな時期、とはどういう事なのだろうか。コーラルの疑問は膨らむばかりだ。
「何故カネルの花なんですの?花なんてたくさんありますのに」
リビエルも疑問を口にした。
確かに、育てるのならばカネルの花で無くても良いじゃないかとコーラルも思う。
「カネルの花じゃなきゃダメなのよ」
リシェルが頬杖を付いて、ぶんぶんとフォークを振り回しながら口を挟んだ。
この時期にしかもカネルの花でなくてはいけない事。何がなんだかさっぱりだった。
「カネルの花と言えば、懐かしいわねぇ。ね、アルバ?」
「アカネ姉ちゃん!昔の事はどうだって良いだろ!」
ニヤニヤと笑っているアカネにアルバが珍しく焦って反論している。
横目でちらっとフェアの顔を見ると、困ったような悲しそうな何とも言えない表情をしていた。
それ以上何も聞けなかった。聞いてはいけない気がした。
「ルシアン・・・さっきのお話、詳しく教えて・・・」
お昼が終わって、お屋敷へ帰ろうとするルシアンとリシェルを無理矢理捕まえて、話の続きをお願いした。
さっきのフェアの表情がどうしても気になって仕方がないのだ。
「うーん、どうしよう?姉さん?」
「良いんじゃないの?別に隠しておく事でも無いし」
神妙な面持ちのルシアンとは対照的に、リシェルはけろっとした態度だ。
コーラルはじっとルシアンを見つめた。
すると、ルシアンはしばらく考えた後ゆっくりと話始めた。
「もうすぐ母の日、なんだよ」
「・・・母の日??」
聞き慣れない言葉に、コーラルを含め御使い全員が驚きの表情を浮かべた。
母の日なんて言うものは聞いた事がない。
先代の記憶や知識にもそのような物は無かった。
「知らないのも無理はないわ。だってあいつのパパが言ってたんだもん」
明らかに知らないといったコーラル達の様子に、あっけらかんとした態度でリシェルが言った。
フェアの父親が言っていた、という事は彼の故郷の世界での風習なのだろう。
それならば御使い達が知らないのも、先代の記憶や知識に無いのも無理ない。
「母の日って言うのはね。1年に1度お母さんに感謝する日なんだって。カーネーションって花をプレゼントするらしいんだけど。」
「リインバウムにはそういう花は無いし。カネルの花がその花に似てるらしいわよ」
カーネーション、確かにそれも聞いた事が無い花の名前だ。
フェアはその母の日のためにカネルの花を育てているに違いないとコーラルは思った。
けれど、フェアの母親は彼女が幼い時に亡くなってしまっているはずだ。
どうやってプレゼントする気なのだろう??
いや、それよりもお母さんに感謝する日があると言うのなら、自分も大好きなお母さんに感謝しなければならない。
「・・・僕もフェアにプレゼント・・・したい」
キレイなお花をプレゼントして、「いつもありがとう」その一言を改めて伝えたい。
「あんたにお花なんて育てられんの?」
「失礼ですわよ!リシェル!」
ポロッと思った事を口にしてしまったリシェルにリビエルが突っかかる。
確かに、自分が花を育てるなどという事が出来るかどうかわからない。
もしかしたら、枯らしてしまうかも知れない。
「お花を育てるのも・・・経験・・・」
だよね、セイロンとセイロンを見やる。
扇子で口元を隠してはいるが、いつものあの全てを見透かしたような笑みを浮かべてるに違いない。
実は母の日も知っていたのではないかとさえ思えてくる。
「それならミントさんの所に行くと良いわ。フェアも毎年ミントさんに種を貰ってるはずだから」
グラスのジュースを一気に飲み干すと、リシェルが言った。
ここからコーラルの初めての母の日プレゼント作戦が始まったのだ。
「・・・早く大きくなぁれ・・・」
小さく呟いて、1番日当たりの良さそうな所へ植木鉢を動かす。
野菜を取りに来たフェアに見つかっては作戦が台無しなので、後で戻しておいて貰えるように頼んでミントの家を後にした。
もうすぐお昼休憩が終わる時間だ。
いつも以上にフェアにくっついて、仕事をしっかりと見ておかなければならない。
何故ならば、花をプレゼントしただけではコーラルの母の日は終わらないからだ。
それから毎日毎日コーラルはミントの所へ通った。
少しずつ大きくなるカネルの花を見て、フェアの笑顔を思い浮かべる。
キレイな花を咲かせる事が出来れば、きっとフェアは喜んでくれる。その一心だった。
「ねぇ、オヤカタ?きっとフェアちゃんは喜んでくれるよね?」
「ムイムイ!」
だって、コーラルちゃんはこんなに頑張っているんだもの。
毎日花の世話をしに来るコーラルをミントは優しい眼差しで見つめていた。
そして、母の日当日。
フェアは寝室で困り果てていた。
と言うもの。今朝珍しくコーラルが自分より早く起きていると思うと。
「・・・今日は僕達が頑張るから、フェアはお休み・・・」
と、言われ厨房から追い出されてしまったのだ。
ずっと働き詰めなフェアにとってお休みと言われても何をしたら良いのか。
「皇子様!シーツが逆さまですわ!」
「ちょっと、グランバルドォ?洗濯物落として歩かないでよ」
「ポムニットさん!!!!お鍋!お鍋!!」
さらに、家の至る所から聞こえてくる声に外の様子が気になって仕方がない。
出て行ってしまいたいのはやまやまだが、そうすると皆のせっかくの好意を踏みにじってしまう。
でも気になって気になって仕方がない。
「あ、カネルの花今年もキレイに咲いたなぁ・・・」
朝水をやるだけで、じっくり様子を見る事が出来なかった窓辺の植木鉢。
今年もピンク色のキレイな花が1輪風に揺れている。
その様子を見ているとなんだか妙に眠くなって来て、自然と瞼が重くなっていった。
みんな大丈夫かな?ミントお姉ちゃんも来てくれるって言ってたし、アルバも居るし。
眠りに落ちるまどろみの中でそんな事を考えていた。
母の日の今日はコーラルが1日店長だ。
と言っても、流石にに料理は作れないので、料理はポムニットとミントにお願いしている。
コーラルは他のみんなと一緒に料理を運んだり、掃除をしたり、洗濯をしたり。
とにかくいつも以上に率先して動いた。
寝室に入ったっきりで静かだけど、フェアはゆっくり休めているだろうか。
みんなの力を仮ながら何とか仕事をこなしながら、コーラルはそんな事を考えていた。
バタバタと慌しく動いていると、気が付くともうすぐお昼休憩の時間だ。
「ありがとうございましたー」
ランチの最後のお客さんを見送った後、コーラルはこっそりと寝室を覗いてみた。
ベッドの上で気持ち良さそうに寝ているフェアを見つけた。
起こさないようにそーっと扉を閉めて寝室に入ると、じっとフェアの寝顔を見つめた。
いつもコーラルより遅く寝て、コーラルよりも早く起きて働くフェア。
そんな彼女の寝顔を見る事が出来るのは非常に珍しいことだ。
ゆっくりと寝かせてあげたいが、そろそろお昼なので起きてもらわなければならない。
「・・・フェア、フェア起きて・・・お昼ご飯だよ」
ゆさゆさと体を揺すった。
やはり、相当疲れているのだろうか。なかなか起きてくれない。
「フェア、ご飯だよ・・・」
もう1度フェアの体を揺すった。
「うーん・・・?・・・コーラル??」
眠そうな目を擦って、フェアが目を覚ました。
ゆっくり休んでと言った手前、無理矢理起こすのは気が引けてしまうが。
起こさずに寝ていたせいでご飯を食いぱぐれるのはもっと気が引ける。
「お昼、食べよう?」
起き上がる手助けをしながら、フェアに言った。
フェアのこんな姿を見られるのは僕だけの特権だよね?そんな事を考えているのは内緒だ。
「遅いわよー!もうお腹ぺっこぺこだわよ」
フォークとスプーンを持った両手でどんどんとテーブルを叩きながらリシェルがぶーたれる。
テーブルにはポムニットお手製のお昼ご飯が並べられていた。
「フェア、今日はゆっくり休めていまして?」
「お休みなんて本当に久しぶりだからみんなの事が気になっちゃって」
リビエルの問いにフェアは正直に答える。
「そんな事言って、どーせ寝こけてたんでしょおー?寝癖付いてるわよー」
「良いじゃない?ちゃんと休めてるみたいだし」
リシェルのちゃちゃをフォローするようにルシアンが言った。
確かにさっきまでスヤスヤと気持ち良さそうに寝ていた、とコーラルは思う。
いつも無理をしているフェアが少しでもたった1日でも休めているなら嬉しい。
「でも、午後は何をしようか全然決めてないの。まさか寝て過ごしちゃう訳にもいかないし」
「全く、贅沢な悩みですわ」
困ったように笑うフェアに、呆れたようにリビエルが言う。
しかし、それだけ休み無く働く彼女にとって、仕事をしないと言うのは考えられない事なのだ。
「では、久しぶりゆっくりトレイユの町をお散歩なんてどうでしょう?」
コレは名案と言わんばかりに、ポンッと手を叩いてポムニットが言った。
「今更町を散歩して何が面白いのよー」
「ゆっくりとお散布するだけでも違った何かが見えてくるかも知れませんよ?」
しかし、リシェルがいともあっさりと切り捨てにかかる。
いつもならばここで引き下がるポムニットだが、今回はなんとか食い下がった。
コーラルとしては、フェアに散歩に出てもらった方が都合が良い。
こっそりと育てていたカネルの花の植木鉢を、これまたこっそりとミントの家から持ってくる事が出来るからだ。
「散歩かぁー。うん、参考にさせてもらうよ」
「ええ、是非にそうして下さいまし!」
ポムニットは満足そうに笑った。
みんなでお昼を食べた後。コーラルは一人ミントの家へ向かっていた。
大切に育てカネルの植木鉢をこっそりと運ぶためだ。
昨日までに大きく膨らんでいたつぼみはすっかりと花開いて、真っ赤な花が咲いていた。
「お花・・・咲いた・・・」
「コーラルちゃんが一生懸命お世話したからだよ」
生まれて初めて育てた花は、思わず見とれてしまうくらいにキレイだった。
自分にも花を育てる事が出来たという事が、なんだか嬉しく感じる。
「よし、じゃあリボンを付けてっと。フェアちゃんに見つからないうちに移動しようか」
「こっちは・・・ここに付けて・・・」
ミントが花と同じくらい真っ赤なリボンを植木鉢に付けてくれた。
その袖をくいくいと引っ張って、隣の植木鉢を指差す。
「こっちは切ってしまっても良いの?」
ミントの問いにコーラルはこくんと頷いてみせる。
この日のために育てたカネルの花は一つだけでは無かった。
一生懸命考えた母の日作戦に用意した花は二つ。
どちらもフェアのためにコーラルが一生懸命育てた花だ。
何故二つも用意したのかはミントにも解らないが、コーラルによればこれが今回の最大のサプライズらしい。
「はい、これで良いのかな」
一つは植木鉢に赤いリボンが、もう一つは一輪の可愛らしい花束に。
二つの花はそれぞれ異なる姿のプレゼントになった。
「・・・ありがとう」
「どう致しまして!それじゃ、そろそろ行きましょうか」
優しく微笑むミントに、控えめにお礼を言うとぺこりとお辞儀をした。
プレゼントの用意はバッチリだ。フェアは喜んでくれるだろうか。
そんな事を考えながら植木鉢を抱え込むと、ミントの後に続いてその場を後にした。
アルバが散歩に連れ出してくれているはずのフェアに遭遇しないように、細心の注意を払いながら。
「(お花・・・何処に置いたら見つからないかな・・・)」
悩んだ末に見つけた場所は、宿のカウンターの下。
そこなら今日は大丈夫なはず、そう思った。
ディナーの時間が終わり、最後のお客さんを見送るとようやっとみなの夕飯の時間だ。
プレゼントをお披露目する時間が刻一刻と迫るにつれコーラルは妙にそわそわしてしまう。
なんて言って渡そうか。ちゃんと「ありがとう」と言えるだろうか。
「(お母さん、いつもありがとう・・・。お母さん、いつもありがとう・・・)」
心の中で何度も何でも復唱をする。食事中のみなの会話など耳に入らぬほどに緊張していた。
夕飯の時間が終わり、食器を片付けた後。
コーラルはこっそりと隠して置いたカネルの花を持って、忍び足でそーっとフェアの真後ろに立った。
「フェア・・・あのね・・・」
声を掛けてから、服を掴んでくいくいと引っ張った。
「わっ!!コーラル、どうしたの?」
「コレ・・・母の日・・・プレゼント・・・」
驚いた表情で振り向いたフェアに一生懸命育てたカネルの花の植木鉢を差し出した。
フェアは今どんな顔をしているだろうか?緊張して、ぎゅっと目を瞑ってしまった。
ふわっと、暖かな感触がしたと思い恐る恐る目を開けると、植木鉢ごとフェアに抱きしめられていた。
「ありがとう、コーラル」
耳元で聞こえたフェアの声は微かに震えているような気がした。
喜んでくれているのだろうか。迷惑だったのだろうか。
ちらりとアルバの顔を見るとにっこりと笑って、小さくガッツポーズをしている。
「フェア・・・嬉しい・・・?」
「すごくすごく嬉しいよ!」
コーラルの問いにフェアは笑顔で答えてくれた。
それは、コーラルが見たかった最高の笑顔だ。
カネルの花プレゼント作戦は大成功だが、コーラルからのサプライズはもう一つある。
それらも成功させるために、コーラルはもう一度フェアの服を引っ張った。
「・・・母の日まだ・・・終わりじゃないよ・・・」
もう一つのサプライズ、それにはあの花も必要だ。
コーラルが母の日を知るきっかけとなったあの花が。
コーラルがフェアを連れて向かった先。
今はすっかり水が濁ってしまい町の住民からは「ドブ池」と呼ばれている場所。
そう、「望月の泉」だ。
「フェアが・・・お花育ててたのは・・・ここへ来るためでしょ・・・?」
何故かは解らないが、毎年大切に育てたカネルの花を泉に入れていると。
これはルシアンから聞いた話だった。
こっそりと持ち出したフェアが育てたカネルの花をそっと差し出した。
「そのために、リボン・・・付けてた、違うの?」
「・・・そうだよ。ここにお母さんが居る訳じゃないけど、思い出の場所だから」
お母さんに届く気がするんだ、そう小さく呟いく。
目の前のピンクの花をきゅっと握り締めた。
「・・・僕も、フェアのお母さんに・・・お花持って来たよ・・・」
ミントにラッピングして貰った花束を見せた。
フェアとフェアの母親似届くように願いを込める、これがサプライズの最後だ。
本当に届くかどうかなんて解らないけれど、きっと無意味なんかではない。
フェアがそう信じるのなら、コーラルも信じたい。たったそれだけだ。
「ありがとう・・・。お母さんに届くと良いな・・・」
きっと届く。そう願いを込めた花束を今年は二つ。
そっと泉に浮かべた。
「・・・お母さん、いつもありがとう」
全てのお母さんに感謝の言葉を・・・
END
※童話「赤ずきん」を題材にした2次創作物です※
トントン、トントン
何者かが玄関の戸を叩く音が聞こえる。
深い深い森の中にぽつんと建つ一軒家には病気のおばあさんが住んでいた。
「はぁい、どなた?赤頭巾かい?」
ベッドに入ったままで、おばあさんは玄関に向かって言う。
1日の半分以上をベッドの中で過ごす病気のおばあさんの所には2日に1回赤頭巾と呼ばれる女の子がお見舞いにやってくる。
今日はその赤頭巾が尋ねてくる日なのだ。
しかし、おばあさんが声をかけても一向に玄関を叩いた主は返事をしない。
トントン、トントン
返事は無く、再び玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「おまえさんは赤頭巾ではないのかい?」
戸を叩いた主が赤頭巾なのならば、おばあさんが返事をすればすぐに入ってくるはずなのだ。
しかし、おばあさんが返事をしても再び戸を叩くだけ。
おばあさんは不審に思いそっとベッドを出る。
足音を立てぬように、そろそろと玄関に近付いていく。
玄関の横の窓のカーテンの隙間からそっと外をうかがうと、そこに赤頭巾などは居なかった。
茶色い毛が全身を覆った大きな体、恐ろしい光を宿した大きな瞳。
玄関の戸を叩いた主はオオカミだったのだ。
「おまえさん、オオカミだね?私に何か用なのかい?」
おばあさんは椅子に腰掛けて戸の向こうのオオカミに尋ねた。
「おばあさん、私はオオカミではありません。赤頭巾です」
オオカミが赤頭巾の声を真似して返事をする。
その声は赤頭巾と到底似ても似つかぬようなしゃがれた声だった。
「そうかい。ところでその声はどうしたんだい?」
赤頭巾になりすましたオオカミにおばあさんはゆったりとした口調で尋ねる。
本物の赤頭巾が来るまでに、このオオカミを逃がしてやらなければならない。
そう、おばあさんはこの哀れなオオカミを逃がしてやらなければならないのだ。
「風邪を引いてしまったの」
そう言って、オオカミはワザとらしく咳をしている。
おばあさんに正体が見抜かれている事に、オオカミは気付いていないようだ。
「赤頭巾や、鍵は開いているよ。入っておいで」
戸の向こうのオオカミにおばあさんは入るように促す。
すると、待っていましたと言わんばかりにギギィと音を立てて玄関の戸が開いた。
どしどしと音を立ててオオカミがおばあさんの家の中へ入ってくる。
獲物を目の前にしてオオカミの大きな瞳がギラギラと輝く。
「いらっしゃい、オオカミさん」
おばあさんはオオカミに向かって微笑んで見せた。
「オオカミが目の前に居るって言うのに、あんた恐くないのかい?」
恐ろしいオオカミが目の前に居るというのに、叫び声も上げずに椅子に腰掛けるおばあさん。
オオカミにはさぞ不思議な光景だったに違いない。
恐がる素振りを見せるどころか、笑顔をむけているのだ。
「さぁね。で、おまえさんは私を食べに来たのかい?」
落ち着いた、尚且つゆったりした口調でおばあさんはオオカミに尋ねた。
「あんたみたいなばあさんでも、少しは腹の足しになるだろうからな。解ったらおとなしく・・」
「止めておきなさい。私を食べたら、おまえさん。殺されるよ?」
早速食事に取り掛かろうとするオオカミに、おばあさんは真剣な表情を向ける。
「殺されろ?誰にだよ」
「赤頭巾さ。あの子に掛かればおまえさんなんか恐るるに足らない」
おばあさんを食べてしまえば、オオカミはすぐに赤頭巾に殺される。
しかし、そんな話をオオカミが信じる訳がなかった。
大きな声を出して笑うオオカミ。
「ばあさんよ。そんな話誰が信じると思う?嘘にしては、もう一歩だな」
「信じるも信じないもおまえさん次第さ。もうすぐ赤頭巾がやってくる」
おばあさんは微笑む。
そんなおばあさんの様子を見てか、オオカミの表情も次第に曇り始めた。
噂程度だったが、狩人よりも恐ろしい赤い頭巾を被った女の子の話を聞いた事があったような気がする。
微笑んだままのおばあさんの顔をちらりと見た。
おばあさんが言っている事が本当ならば、自分はその女の子に殺されてしまう。
せっかくありついた獲物を食べてしまえば、殺されてしまうかも知れない。
「私は遅かれ早かれ死んでゆく身だが、おまえさんは違うだろ?」
オオカミとてこれが最後の晩餐になってしまうというのなら、病気のおばあさんなどでは無く、もっと美味しい獲物が良いに決まっている。
だが、この期をを逃してしまえば、またしばらく獲物にはありつけないかも知れない。
おばあさんの言葉にオオカミは迷ってしまった。
「こんな老いぼれを食べるのは止して、赤頭巾が来る前に逃げなさい」
頭の中で密かに葛藤を続けるオオカミに、おばあさんは思いも寄らぬ言葉を口にした。
自分を食べに来たオオカミに逃げろと言ったのだ。
「あんたを食べた後に、やってきた赤頭巾も食べてやるよ。ガキと一緒にあの世へ行くんだな」
オオカミはニヤリと笑っておばあさんを見た。
おばあさんを食べた後に殺されるなら、殺される前に赤頭巾も食べてしまえば良い。
そうすればオオカミはお腹いっぱいになる。それだけじゃなく、殺される心配もなくなるのだ。
おばあさんのいう事が本当だとは限らない。
狩人よりも恐ろしい女の子など只の作り話だ。
食べられないためにおばあさんが作ったインチキに違いない。
オオカミはそう考えたのだ。
「そうかい。じゃあ仕方がないね」
だったら私をお食べ、とおばあさんは微笑む。
そんなおばあさんの落ち着いた様子が妙に気持ち悪いと思う。
―狩人よりも恐ろしい赤い頭巾の女の子―
―私を食べたら、赤頭巾に殺される―
なにやらいろいろな物がオオカミの頭を駆け巡る。
オオカミは頭を横に勢いよく振ると、微笑むおばあさんをまっすぐに見つめた。
「いただきます」
―コレが最後の晩餐ね、オオカミさん―
おばあさんを胃に放り込む瞬間に、そんな声が何処からか聞こえた、そんな気がした。
トントン、トントン
何者かが玄関の戸を叩く音が聞こえる。
深い深い森の中にぽつんと建つ一軒家には病気のおばあさんが住んでいた。
「はぁい、どなた?赤頭巾かい?」
ベッドに入ったままで、おばあさんは玄関に向かって言う。
1日の半分以上をベッドの中で過ごす病気のおばあさんの所には2日に1回赤頭巾と呼ばれる女の子がお見舞いにやってくる。
今日はその赤頭巾が尋ねてくる日なのだ。
しかし、おばあさんが声をかけても一向に玄関を叩いた主は返事をしない。
トントン、トントン
返事は無く、再び玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「おまえさんは赤頭巾ではないのかい?」
戸を叩いた主が赤頭巾なのならば、おばあさんが返事をすればすぐに入ってくるはずなのだ。
しかし、おばあさんが返事をしても再び戸を叩くだけ。
おばあさんは不審に思いそっとベッドを出る。
足音を立てぬように、そろそろと玄関に近付いていく。
玄関の横の窓のカーテンの隙間からそっと外をうかがうと、そこに赤頭巾などは居なかった。
茶色い毛が全身を覆った大きな体、恐ろしい光を宿した大きな瞳。
玄関の戸を叩いた主はオオカミだったのだ。
「おまえさん、オオカミだね?私に何か用なのかい?」
おばあさんは椅子に腰掛けて戸の向こうのオオカミに尋ねた。
「おばあさん、私はオオカミではありません。赤頭巾です」
オオカミが赤頭巾の声を真似して返事をする。
その声は赤頭巾と到底似ても似つかぬようなしゃがれた声だった。
「そうかい。ところでその声はどうしたんだい?」
赤頭巾になりすましたオオカミにおばあさんはゆったりとした口調で尋ねる。
本物の赤頭巾が来るまでに、このオオカミを逃がしてやらなければならない。
そう、おばあさんはこの哀れなオオカミを逃がしてやらなければならないのだ。
「風邪を引いてしまったの」
そう言って、オオカミはワザとらしく咳をしている。
おばあさんに正体が見抜かれている事に、オオカミは気付いていないようだ。
「赤頭巾や、鍵は開いているよ。入っておいで」
戸の向こうのオオカミにおばあさんは入るように促す。
すると、待っていましたと言わんばかりにギギィと音を立てて玄関の戸が開いた。
どしどしと音を立ててオオカミがおばあさんの家の中へ入ってくる。
獲物を目の前にしてオオカミの大きな瞳がギラギラと輝く。
「いらっしゃい、オオカミさん」
おばあさんはオオカミに向かって微笑んで見せた。
「オオカミが目の前に居るって言うのに、あんた恐くないのかい?」
恐ろしいオオカミが目の前に居るというのに、叫び声も上げずに椅子に腰掛けるおばあさん。
オオカミにはさぞ不思議な光景だったに違いない。
恐がる素振りを見せるどころか、笑顔をむけているのだ。
「さぁね。で、おまえさんは私を食べに来たのかい?」
落ち着いた、尚且つゆったりした口調でおばあさんはオオカミに尋ねた。
「あんたみたいなばあさんでも、少しは腹の足しになるだろうからな。解ったらおとなしく・・」
「止めておきなさい。私を食べたら、おまえさん。殺されるよ?」
早速食事に取り掛かろうとするオオカミに、おばあさんは真剣な表情を向ける。
「殺されろ?誰にだよ」
「赤頭巾さ。あの子に掛かればおまえさんなんか恐るるに足らない」
おばあさんを食べてしまえば、オオカミはすぐに赤頭巾に殺される。
しかし、そんな話をオオカミが信じる訳がなかった。
大きな声を出して笑うオオカミ。
「ばあさんよ。そんな話誰が信じると思う?嘘にしては、もう一歩だな」
「信じるも信じないもおまえさん次第さ。もうすぐ赤頭巾がやってくる」
おばあさんは微笑む。
そんなおばあさんの様子を見てか、オオカミの表情も次第に曇り始めた。
噂程度だったが、狩人よりも恐ろしい赤い頭巾を被った女の子の話を聞いた事があったような気がする。
微笑んだままのおばあさんの顔をちらりと見た。
おばあさんが言っている事が本当ならば、自分はその女の子に殺されてしまう。
せっかくありついた獲物を食べてしまえば、殺されてしまうかも知れない。
「私は遅かれ早かれ死んでゆく身だが、おまえさんは違うだろ?」
オオカミとてこれが最後の晩餐になってしまうというのなら、病気のおばあさんなどでは無く、もっと美味しい獲物が良いに決まっている。
だが、この期をを逃してしまえば、またしばらく獲物にはありつけないかも知れない。
おばあさんの言葉にオオカミは迷ってしまった。
「こんな老いぼれを食べるのは止して、赤頭巾が来る前に逃げなさい」
頭の中で密かに葛藤を続けるオオカミに、おばあさんは思いも寄らぬ言葉を口にした。
自分を食べに来たオオカミに逃げろと言ったのだ。
「あんたを食べた後に、やってきた赤頭巾も食べてやるよ。ガキと一緒にあの世へ行くんだな」
オオカミはニヤリと笑っておばあさんを見た。
おばあさんを食べた後に殺されるなら、殺される前に赤頭巾も食べてしまえば良い。
そうすればオオカミはお腹いっぱいになる。それだけじゃなく、殺される心配もなくなるのだ。
おばあさんのいう事が本当だとは限らない。
狩人よりも恐ろしい女の子など只の作り話だ。
食べられないためにおばあさんが作ったインチキに違いない。
オオカミはそう考えたのだ。
「そうかい。じゃあ仕方がないね」
だったら私をお食べ、とおばあさんは微笑む。
そんなおばあさんの落ち着いた様子が妙に気持ち悪いと思う。
―狩人よりも恐ろしい赤い頭巾の女の子―
―私を食べたら、赤頭巾に殺される―
なにやらいろいろな物がオオカミの頭を駆け巡る。
オオカミは頭を横に勢いよく振ると、微笑むおばあさんをまっすぐに見つめた。
「いただきます」
―コレが最後の晩餐ね、オオカミさん―
おばあさんを胃に放り込む瞬間に、そんな声が何処からか聞こえた、そんな気がした。
雨は嫌いだ。
しとしと、ざーざーと一日中降り続く雨。
窓の外に置いてある植木鉢をそっと見つめた。
―ここにいるよ―
「お休みなさい、良い夢を」
優しい言葉と笑顔を召使は少女に向けた。
まだ、両親が恋しいであろう5歳の少女。
「姫様のご様子は?」
そう尋ねられた召使は沈んだ表情で俯き、首を横に振る。
「怪我をなさっている訳ではないと、ヴォルス様もお医者様も言っておりますわ」
つい先日まで、姫と呼ばれる少女は無邪気に笑う明るい子供だった。
でも今は一言も言葉を発する事も無ければ、笑顔すら見せてはくれない。まるで生きているだけの人形のようになってしまったのだ。
一人になった暗く広い部屋で少女はベッドに入り、じっと天井を見つめていた。
アメジスト色のその瞳には光は無く、悲しげな色を映し出している。
「・・・・・ママ」
そう、一言呟くときゅっと体を丸め膝を抱えた。
誰にも聞こえないように少女は小さくすすり泣く。
そして今日も無き疲れていつの間にか眠りにつくのだ。
次の日の朝、少女は母の部屋に居た。
毎朝当たり前のように会えていた、そこに居るはずの母の部屋。
「姫様、ヴォルーナ様。こちらにいらしゃったのですね」
もうすぐ朝食の時間ですよ、と召使は言った。
「・・・・いらない」
ヴォルーナは小さな声で言う。母の居ない食卓など、ヴォルーナはつきたくはない。
何もかもどうでも言い、そう思い始めていた。
「少しでも何か食べないと、お体を壊しますわ」
召使の心配する言葉すらも鬱陶しくさえ思える。
とにかく一人にして欲しいとそう言わんばかりに召使を見つめた。
「・・・・病気になって死ねば、ママの所へ行ける?」
「なっ・・・・ヴォルーナ様・・・・」
召使の表情が一瞬にして凍りつく。
目の前のたった5歳の少女がこんなことを言うなんて、召使は想像もしていなかった。
何も言う事が出来ずに、召使はただ体を震わせてその場に立ち尽くす。
「お前が死んでしまったら、私はどうすれば良いのだ?」
扉の方からずっしりと重い声が聞こえた。
見ると開けっ放しの扉の外には、がっしりとした体つきの背の高い男が一人。
「・・・・ヴォルス様・・・」
召使が男の名を呼ぶ。ヴォルスは召使に優しい笑顔を向けた。
「下がって良いぞ。後は私に任せなさい」
深々と頭を下げ、召使は部屋を小走りに去っていく。
ヴォルスは召使の姿が見えなくなったのを確認すると、部屋へ入り扉を閉めた。
数日で一気に変わってしまった愛娘。亡き妻との大切に大切に育ててきた一人娘だ。
「ママはヴォルーナのせいで死んじゃった」
数日前。土砂降りの雨の夜、ヴォルーナの母親のライザはヴォルーナを庇い命を落とした。
自分のせいでライザは死んだ、ヴォルーナはずっとそう思っているのだ。
「ヴォルーナ、あれはお前のせいではないんだよ。ママは・・」
「違くないっ!ヴォルーナが・・・・ママの言う事聞けなくて・・悪い子だったから・・・だからっ」
小さな手を握り締めて、必死に涙を堪えた。
瞳を閉じれば大好きな母が亡くなる記憶が蘇る。自分のせいで母が死んだと思い知らされる。
武器を持った恐い人が母を切りつけた瞬間が、ヴォルーナの脳裏に焼きついて離れない。
「来たら、ダメって・・・・なのに、ママ・・・・」
自分の名前を叫んだ母の声までもが聞こえてきそうな気がして、耳を塞ぐ。
恐い、恐い、恐い
誰か、助けて、ママに会いたい
私をママの所に行かせて
何も聞きたくない、聞こえたくない。ヴォルーナは座り込んで、小さく嗚咽を漏らす。
こんなに苦しい思いをするのならば、自分も死んでしまえば良かった。
あんな形で母と別れるくらいなら、いっそ連れて行って欲しかった。
苦しい、恐い、そんな思いがヴォルーナの中で渦巻く。
「ヴォルーナ、お前に渡しておきたい物がある」
今にも壊れて仕舞いそうな娘をヴォルスはそっと抱きしめる。大きな手でヴォルーナの背中を擦った。
「もう、出てきても良いぞ」
誰かに向かって発する声。その声に反応して、誰かが近付いてくる物音。
その足音は人にしては控えめすぎていてまるでぬいぐるみを床に歩かせているような音だった。
恐る恐る顔を上げ、父の腕の中から部屋の中を見る。
さっきとさほど変わった様子も無く誰か人が居る気配も全くない。
「そっちじゃねぇよ、こっち」
「きゃっ」
突然ひょっこりと何かが目の前に現れた。
大きな耳に、くりくりとした大きな瞳。首にはピンク色のリボンを巻いている。
「ウサギさん・・・?」
ウサギのぬいぐるみがじっとヴォルーナの顔を見ていた。
一体何処からこんなものが出てきたのだろうか。しかし、ヴォルーナにはそんなことはどうでも良い。
ただ、このウサギのぬいぐるみからは大好きな母と同じ香りがする。甘い良い香り、母の香りだ。
「ママからお前にだよ・・・ライザ」
「おう」
ヴォルスがウサギを「ライザ」と呼ぶ。
するとウサギは、顎が外れてしまったのではないかと思うくらいに口をぱっくりと開けて見せた。
口を縫ってある糸も一緒に伸びているのだろうか、切れる様子は全くない。
ぱっくりと開けた口の中から紫色の光が溢れ出た。そして、その光の中からヴォルーナの大好きな人に良く似た人物が現れた。
「マ・・・マ・・・?」
凄く凄く小さくなってしまってはいるが、間違いなくヴォルーナの母だ。
「ヴォルーナ、貴女がこれを見ているという事は私はもう貴女の元には居ないのですね」
聞き慣れた優しい母の声がする。もう、聞く事は出来ないと思っていた母の声。
「ヴォルーナ?ずっと見ていましたよ、ライザの眼を通して貴女のことをずっと」
母はヴォルーナに向かってにっこりと笑いかける。
ヴォルーナが大好きだった笑顔も声も以前とどこも変わっていない。ヴォルーナは妙にそれが嬉しかった。
死んでしまった母が目の前に居る。無意識に母に向かって手を伸ばした。
スッと通り抜けるヴォルーナの手。ライザは悲しげに笑った。
「私はもう、あなた方に触れることすら出来ません。ですが、ずっと見守っていますよ」
「もう、会えない?」
ヴォルーナの問いにライザはにっこりと笑ってみせる。
「いつでも、貴女の傍に居ます。彼の中に私は居ます」
口を開けたままで喋ることが出来ないのか、ウサギはヴォルーナに手を差し出す。
今度からは母の変わりに自分が傍に居る。そう言っているように見えた。
小さなウサギの手が同じように小さなヴォルーナの手をそっと握る。ウサギの手はぬいぐるみのくせにライザやヴォルスのように温かい。
「彼方はママなの?ママはヴォルーナの傍に居てくれるの?」
握った手をぶんぶんと縦に振りながら、ウサギはこくんと大きく頷く。
「ママ、ヴォルーナのこと怒ってないの?」
約束を破った事、そのせいでヴォルーナを庇い命を落とした事をライザは怒っているのではないか。
聞きたくなかった、でも聞かずには居られなかったのだ。
ライザは静かに首を横に振って見せた。そして一言。
「怒っていませんよ、ヴォルーナ。あの時貴女に怪我がなくて本当に良かった」
そう言った。愛する娘を守って落とした命、ライザには全く悔いは無い。ましてや幼い娘を怒ったり恨んだりするなど、ライザがするはずが無い。
「ママ・・・ママっ・・・・ごめ・・なさ・・・っ・・」
我慢していた涙が一気に溢れ出る。ヴォルスの胸にしがみ付いて声を上げて泣いていた。
約束を破ってしまった、そのせいで死んでしまったと思っていたヴォルーナ。
自分が良い子に出来なかったから、母は死んでヴォルーナから離れて行ってしまったんだ。
しかし、それは只の思い込みだった。母はライザはヴォルーナを怒ってなどいない。それどころか死んでしまってもなお、彼女の傍に居て見守ってくれていたのだ。
「ヴォルーナ、死んでしまいたいなんて言わないで?貴女は私達の大事な娘なのだから」
ヴォルーナは泣きながら、何度も何度も頷く。
その頭を父であるヴォルスがそっと撫でた。
「ヴォルーナ、ヴォルス様いつまでも愛しておりますよ」
ライザは最後ににっこりと笑うと、紫色の光に包まれて消えていった。
何事も無かったかのように、ウサギのぬいぐるみはぱっくりと開いた口を閉めてヴォルーナを見る。
手は先ほどから握ったままだ。
「オレ様はライザにお前のために作られたぬいぐるみだ」
見た目とは裏腹にかなりぶっきらぼうな物言いをするらしいウサギのぬいぐるみ。
涙を拭って父とウサギを交互に見る。
「ライザって呼べよ!ヴォルーナ」
「・・・うんっ!」
ヴォルーナとライザは一心同体の姉弟のように毎日を過ごす。
悲しい時も、嬉しい時も、全てを二人で分かち合う。
母の形見のぬいぐるみとやがて一国の王となる少女のお話。
「ここにいるよ、貴女のとなりに」
ずっと傍に
END
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HN:
蜂蜜
HP:
性別:
女性
職業:
フリーター
趣味:
ゲーム(ポップン・サモン・ポケモンetc) 小説執筆 お絵描き
自己紹介:
小説家の卵の卵な管理人です。
日々精進、有言実行を夢見て生きてます。
日々精進、有言実行を夢見て生きてます。
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